群馬県立県民健康科学大学 > 学生に読んでほしい本 > 武士道:新装版 新渡戸稲造【著】/奈良本辰也【訳・解説】 三笠書房 1997年【2016年度推薦】
武士道:新装版 新渡戸稲造【著】/奈良本辰也【訳・解説】 三笠書房 1997年【2016年度推薦】

 最初に断っておきます。本書を紹介するのは「武士道の精神を皆さんに注入するため」ではありません。
 唐突ですが、「2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催まであと何日でしょうか?」皆さんも待ち遠しいでしょう。「世界中からどれだけ多くの人が集まって来るでしょうか?」私も今から楽しみです。
 さて、新渡戸稲造の『武士道』、1900年に出版された100年以上前の書物です。『武士道』は世界中で長年読み続けられ、世界の人々の日本人観の形成に影響を与えてきたといわれています。
 世界中で読まれている『武士道』ですが、当の日本人はその内容を知っているでしょうか?ほとんどの人はタイトルしか知らないのではないでしょうか?東京五輪に訪れた外国人と、ひょんなことで親しくなり、もし『武士道』の話題になったとき、教養の一つとして内容のさわりは知っておいた方が良いように思います。
 本書には「武士道とは何か」、武士道を形作る「義」「勇」「仁」「礼」「誠」「名誉」「忠義」などについて、稲造の広い視野と柔軟な理性による丁寧な説明がなされています。さすが明治時代と言わざるをえない古めかしい記述も多々ありますが、現在の日本人にも通じる根源的なものは何か?現在の日本人が忘れてしまったものは何か?時代を超えて皆さんそれぞれの視点で考えながら読み進めていってください。さらに余力のある人は原文にあたり稲造が本当に伝えたかったものに直接近づいてみるのもよいでしょう。
 最初に断ったように、本書を紹介するのは「武士道の精神を皆さんに注入するため」ではなく、「①グローバル時代の日本人の教養として、②批判的に本を読むトレーニングとして、③英文解釈のトレーニングとして」大学生にお薦めするものです。一度手にとってみてはいかがでしょうか?

話のついで:
 私の故郷(岩手県)の実家の近くに「新渡戸観音」なる小さなお堂がありました。稲造の祖先ゆかりの寺です。五千円札の肖像に新渡戸稲造が採用されたとき(1)、隣町にあった「新渡戸記念館」(2)というところで翻訳本を手に入れ、このとき私も初めて内容を知りました。本書を紹介するのは故郷の偉人というひいき目もありますが、実は稲造は群馬県にも縁があるのです。“心の燈台”内村鑑三とは札幌農学校時代からの無二の親友として知られています。また、稲造が35歳の頃に体調を崩して職を辞し、失意の中、群馬県伊香保温泉でも療養生活を送っています。その頃に日本初の農学博士号となる論文をまとめ、さらにその3年後に米国で執筆したのが『武士道』です。それからの稲造の国際的な活躍は言うまでもありません。伊香保の湯に浸かったことが新渡戸稲造の人生のV字回復につながったのかもしれません。
 「もしも群馬の温泉に浸かっていなかったら『武士道』はこの世に生み出されただろうか?」歴史的書物を読むことは、著者が生きた時代背景に思いを馳せながら読める点でも楽しいものと思います。

(1) 1984年に新渡戸稲造が五千円札の肖像として採用された。その後2004年から現在の樋口一葉に代わった。
(2) 稲造の記念館というわけではなく、稲造の祖父・父・兄の三代にわたる新田開発の業績を称えた記念館である。

診療放射線学部 教授 下瀬川正幸 (請求記号 156 ニ)

2017年03月08日

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